今日の私は、夢では別人だった。
こういう時は、ストーリー性のある夢を見ることが多い。


主人公(私)は、高校を出たての二十歳そこそこの女の子だった。
ベテランの女性漫画家のところにアシスタントとして弟子入りしたばかりのようだった。
この先生は50代くらいで、テキパキとして少し冷たいというか、厳しい印象のある人だ。
でも面倒見が悪いわけではなく、怒って怒鳴るということもない。
淡々としているタイプなのだ。
でも私はこの先生の漫画が好きだから、ここへアシスタントに入って仕事をすることにしたのだった。

私は仕事に対してすごくやる気はあったものの、求められたことをすぐにはうまく出来ないもので空回りすることが多かった。
始めてすぐだから慣れるのに時間がかかるのは仕方がないかもしれないけれど、
先生に指示された、原稿の修正がどうしてもイメージどおりにいかない。
そのページは、男性キャタクターが剣を構えて立っている大コマのページで、
腕につけている手甲のような装備品部分の描き込み。
私は修正を重ねるうちに、「該当部分をカッターで切り抜いて別の用紙に差し替える修正法」を試そうとした。
しかし、その手法を取っていいかは先生に未確認だった。
先生に「そのような方法を取らなくてもまだ修正はきく! 紙を差し替えずに修正をやり直しなさい」と指摘されて、
「大失敗してしまった……」
という感じで、失意の中仕事場を抜け出した。

まだ始めて一ヶ月も経っていないけれど、何も手応えややり甲斐を得られていない。失敗ばかりだ。
やる気はあったけれど、適性はなかったのかな(向いてないのかも)……と落ち込みながら、街に出て彷徨った。
雪が降るくらい寒い季節だった。おそらく12月だと思う。


漫画描き友達の同級生女子に会うと、そちらは上手く行っているようでもっと落ち込んでしまった。
けれど、街を彷徨う中で色々な刺激を受けて、
「そういえば、先生の漫画のこれこれこういうところに憧れてアシスタントになろうと思ったんだっけな〜」
と、初心を思い出す。
先生の好きな作品の雪が降る印象的なシーンとか。


作業場に戻ると、先生は根気強く修正箇所についての指示をくれた。
それは、漫画や絵の技巧としてそのコマやキャラクターをどう描くべきか、という適切なアドバイスだった。
私は
「先生は、言い方こそ淡々としているけど、すごく根気強くて、きっと根が優しいからここまで面倒を見てくれるんだなぁ……」
と思う。
そのとき先生がぽそりと
「……世界は、美しかった?」
と尋ねた。
私が出奔して、街を彷徨って何を見てきたか、どう思ったかについて尋ねているのだと思う。
そういえば先生は、「この世界の美しいものを出来る限り漫画に描き表すことに人生を捧げたい」という想いで
漫画を描いているということを思い出した。
「はい、美しかったです……」
と答えると、涙がボロボロ出てきてしまった。
先生と一緒に、世界の美しさを漫画にするという仕事を続けたい、という想いが溢れた。
先生が、私の肩をぽんぽんと優しく叩きながら微笑んでいて、多分それは初めて見た先生の笑顔だった。