その朝、なんの前触れもなくせらの元に城から伝令の者がやってきた。

『暇だから遊ぼうぜ!!   ――マリオ王』

マリオ王は若くして王に即位したこの小さな国の王様で、せらとは幼馴染なのだった。
伝令の者は巻物を広げてその文書を淡々と読み上げると、すぐに回れ右をして
城へ帰って行った。

城下町の片隅で絵描きをして暮らしているせらは、今日は仕上げたい絵があったため
伝令の者が帰っていくのを、少し途方に暮れながら眺めていたが、
城に呼び出されることに関しては別段珍しいことでもなかったので
とにかく出かける準備をすることにした。

せら「もう、マリオさんは相変わらず自由だなあ・・・」

せらは意味のない英文の書かれたTシャツを適当に着ると、特に使う予定もない雑貨が
山盛りに入ってぎゅうぎゅうのリュックを重たげに背負って家を出た。

城下町を歩けば城はすぐそこに見えてくる。
まるで丸いキノコのようなお城だ。

せら「いつみても立派なお城だなあ。。」

天気は快晴。
青空にそびえるまぁるい城から、せらは何故か言い知れぬ威圧感を感じた。
それはその日の青空におおよそそぐわぬイメージだった。
歩幅が縮まる…。
しかし、すぐにその嫌なヨ缶を頭から振り払う。

せら(今日は一体どんな目に遭わされるのか、いや、そんなことを考えるのはやめよう。
   マリオさんと一緒に食事をするハメにならなければ、それなりに平和なはずだ…!)


小さな頃から城に出入りしていたせらは、顔パスで城門をくぐり王室へ向かう。
番犬のチップがじゃれ付いてきた。
せらは現実逃避のためにチップとしばし遊ぶことにした。
しかしその結果、園庭に植えられた大きなポプラの木に激突してしまい、おでこにコブができたので
自分を戒めながら、再度王室を目指した。



王室ではマリ王が絵を描いて遊んでいた。
せらとマリ王は幼い頃から絵を描く時間を長く共有してきた。
せらも絵描きをやっているが、この国の美術館や画商はマリ王の絵を広く扱うため
せらの方といえばなかなか注目こそされないものの、一部コアなファンを獲得する感じで
なんとか生活は成り立っていたが、実は副業のほうが時々盛り上がることがあった。


マリ王「今描いたその絵、街で50000マイリスで売ってきて!」

マリ王は家来に命令した。

せら「あ、こんにちはー。おじゃましーます」
マリ王「あ、せらさんじゃん!遅いよ!」
せら「ご、ごめなさいっ! 今日もお絵かきして遊ぶの?」
マリ王「ああ、実はそうしようと思ったんだけど予定が狂ったんだよ。
    ちょっと魔王を退治してきてくれないかな」
せら「へっ?」
マリ王「魔王だよ、魔王、知らないの?」
せら「あぁ…ちょっと、今まで無縁な世界に生きてきたっぽくて知らないです…」
マリ王「えー説明めんどくさいなあ!
    いろいろ端折るとね、国王になったら国から一人勇者を選出して、魔王退治に
    行かせなきゃいけないっていう法律があるの!今日締め切りだってさっき思い出したの!
    せらさんは僕を違法者にしたいの?」
せら「えーそんなこといきなり言われてもなー。魔王ってなんなの?」
マリ王「そんなの僕は知らないよ、勇者が自分で調べなよ!
    せらさん今から勇者ね!」
せら「えー!今日仕上げようと思った絵があったのに…」
マリ王「画材持って魔王退治に行けばいいじゃん」
せら「それって両立できるものなの!?」
マリ王「せらさん次第!!」


こうしてせらは、得体の知れない「魔王」とやらを退治する旅に出なければいけなくなったのである。

マリ王が言うには、旅の支度は城下町で整うらしい。
せらは一人では心細いのでまずはパーティを組まなきゃな、と震えながら心に誓った。
そして有り金で武器や防具、道具を揃えよう、と考えながら、大変なことに巻き込まれたっぽい割には
現実的な自分について客観的に分析していた。

気がつけば日が暮れようとしていた。


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今日の登場人物

勇者せら 無属性・無力・無知
マリオ王 勇者せらの幼馴染。通称マリ王。魔王討伐の勇者にせらを個人的なわがままで無理やり任命。




文:(V)・∀・(V)
原案:蟹Projects