生まれてから一度も自分の足で船を下りなかった天才ピアニストの物語ね。
彼は、生まれてまもなくヨーロッパとアメリカを往復する
豪華客船の中に置き去りにされた。
それを船員が引き取ってそのまま船の中で育てた。
そして小さい頃自らピアノを弾くようになり頭角をあらわす。
彼にはその船が世界の全てであったし、船の外の世界から見たら彼は
(法的にはもちろん)生まれていない存在だった。
そして彼にとってピアノは……。
しかし、音楽は彼の中から生み出されているようなものだった。
かれは天才だった。

と、まぁこんな感じで数々のエピソードを織り交ぜながら
彼の生涯を描いてるんだけど、彼はどうしても船を下りようとはしなかったね。
その理由を彼が最後に話すシーンでは、とても難しい思想を語られた気分になった。

それは彼の境遇が特異すぎるし、彼のピアノが本当に天才的だったからなのかな。
言っていることの意味はわかるんだけど、
それを「理解」することはできないというか。
その、感情を完全には追体験できない。たぶん誰も。
勝手に決めるようだけど、言ってることの意味がわかるだけなんだよ、
たぶん見た人は大体そうだと思う。
想像はつくけど、理解に達さない。
ずっと陸で生きてきたし、これからも生きていく。
陸にいることが普通だと思っている。
そんなわしのような人間には到底理解し得ない感情が、
彼の中にはあったはずなんだ。
だから彼の友人も、本当はどうするべきだったかわからないままだったんだろう。

これがわしの拙い言葉でどうにか表現できる限界のつまらない感想だった。
到底他人の人生なんて理解できないものなんだとは思うけどね。