せらの装備。
白と青のセーラー服。縦笛。白衣。あと、筆ペン。

せらは道具屋を出ると”かにみそ鍋”に戻った。
今日は扉を開けるごとに勇気が必要になる。
かにみそ鍋の扉が先ほどより更に重く感じられた。


みそ「あら、おかえりなさい。…随分と趣味的な装備を…」
せら「いや、これは…僕の趣味ではないです…
   様々な理由からこれしかないと言われました」
みそ「えんどぅさんのお店へ行ったのね。物は確かだから安心して使えるわ。」
せら「そ、そうですか。」

みそ「それで、パーティメンバーなんだけど…」

かにみそが名簿を開いた。
名簿には付箋がたくさん貼ってあった。

みそ「一応ピックアップはしたものの、あなたの属性がわからないと最終的な相性が
   判別できないかな〜というところよ。」
せら「あの…さっきは聞きそびれちゃったんですけど、ぞくせいってなんですか?」
みそ「そうね、自然界にある火や水や、そういったものに元々あるチカラをちょっと借りて
   自分の魔力で増幅させて攻撃や防御、回復に用いるための”カテゴリ分け”のようなものよ。
   どんな人でも微力ながら魔力は持っていて、それを発揮するのにもっとも適している
   チカラの種類は何なのか、ということね」
せら「あらかじめ決まっているものなのですか」
みそ「そうね、大抵は遺伝のように生まれ持ってくるものみたい。家系や種族によって
   特化した属性があったりするくらいだし。
   あなたの属性を知るために少しテストをしないといけないわね。
   一番奥のテーブル席に腰掛けて待っててくれる?」
せら「あ、ハイ。」


店内は入って正面にカウンター、左に2人掛けのテーブルが二つ、
右のほうにはテーブル席が多数設けられており、せらは言われたとおりテーブル席の間を
おそるおそる縫うようにして歩いていき、一番奥の誰も掛けていないテーブルにたどり着いた。

せら(なんか、視線がイタイ。。)


青年「メンバー探しですか?」

礼儀正しそうな青年が話しかけてきた。

せら「あ、不本意ながら・・・」
青年「不本意・・? 旅に出たくもないのにパーティメンバーを募集しているのかい?」
せら「えーとまぁ・・・巻き込まれるような形でして。。」
青年「そうか! さっき噂になってた、”勇者せら”ってもしかして…!」

青年はひらいめいた!とばかりに手を打ち、目を輝かせながら覗き込んできた。

せら「あ、もう、名前まで広まってるんですね…」
青年「僕はえびちゅ! 他に天むす、とか呼ばれてる。
   マリ王の咄嗟の思いつきで勇者に選ばれてしまったんだって?」
せら「そ…んな感じですね。」
、「そうか。勇者を目指して自己研鑽に日々励む若者も少なくはないし、
  勇者と共に魔王を倒しに行きたいと思っている旅の者も世界中にいる。
  いい仲間が見つかるといいけどね。」
せら「あ、ありがとうございます。」

天むすはなぜか上機嫌になってお酒が進み始めたようだ。

、「そうだ、エビ、食べる?」

天むすは、自分が座っていたテーブルから小皿を持ってきた。
そこには、いわゆる日本の寿司ネタにあるような茹でたエビが綺麗に並べられていた。

、「スシとかいう調理方法で、こういう風にするらしいんだ。みそさんがハポン文化に詳しいからね。
  このお店ではこういうのが特別食べられる。」
せら「あ、えーと、僕エビギライなんで…その…。遠慮シマス。」


それまで楽しげだった天むすの表情が急にこわばり、しゅんとなり、その次には怒りに満ちたものに
変わった。


、「俺のエビが、食えないだと…?」
せら「え、あ、いや、そういうことではなくて、エビ全般が、あ、でもエビチリだったら」
、「俺がエビ大好き、エビ主食、エビ家紋を掲げるえびちゅ家の剣士だと、
  知ってか知らずか…いずれにしても、俺が差し出したエビを食えないなんてやつが
  この世にいていいわけがない…」
せら「そんな…」

天むすの耳にせらの言葉は届いていないようだった。


店の外から突如、地鳴りのような音が響いてきた。
何かが近くに落下したらしい。

店内がざわつく。

厨房からどやが走ってきた。

どや「おい、まさか…!」

小石が屋根を突き破って店内の床にめり込んだ。
どうやら天むすの怒りで彼の能力が暴走しているようだ。
天属性の彼は隕石を操ることができるらしく、周囲の客たちは呆れたり焦ったり
各自のリアクションを取りながら天むすから距離を置いた。

近づいてきたのは、厨房のバイトたちとシヴァ谷だった。


まぐ「天さん落ち着けよ、エビくらいで」
、「エビくらいって言うな…!」
まぐ「あぁ、うん、悪かった。今まさに俺は神経を逆撫でした!」

風伯は彼の自慢の巨大鉄扇を振りかざして厚い鋼鉄のバリアを、屋根の上に張った。
おかげで店内に小隕石が降り注いでくることはなくなったが、バリアにそれが
ぶつかる激しい衝撃音は響いてきた。

どや「まったく、だからお前は俺からちゃおずって呼ばれるんだよ」

どやは余裕の態度だ。

朧月「…君は人を怒らせるのが得意なのか? もしくは趣味か?」

朧月はせらに問うた。
せらは必死で首を横に振った。


シヴァ谷は静観している。


どや「まぁこいつはエビのことになるとなぁ、もう、一回コテンパンにするしかないんだよ、ホント。
   わかってるんだよ、あーめんどくせーめんどくせー。」

どやはそういいつつもなぜか嬉しそうに指をパキパキと鳴らしている。
天むすはせらの方から、どやのほうへと向き直った。
体中から「私はいま怒っています」というオーラを発している。

朧月の足元からピキピキと音を立てながら氷が広がりそれは店内にドームを作った。
ドームの中には6人。

怒り心頭の天むす。
そしてそれをおとなしくさせるためと思われる店員3人、どや、まぐ、朧月。
天むすに同じく客のはずで、天むすとせらのやり取りについてはおそらく聞いていなかったであろう
シヴァ谷。
大変なことになってしまった、と震えるせら。

どやが指をパチンと鳴らすとそれを合図に、どや、まぐ、朧月、天むすの4人は
激しい攻防戦を繰り広げ始めた。
シヴァ谷は、時折地属性の能力で天むすの攻撃をかきけした。
せらは「なるほどこれが属性か」と無意識に観察もしていたが、いつとばっちりを食うかわからない状態だ。
戦い方を全く知らない彼はただ見ていることしかできなかった。

天むすは怒りに我を忘れているため冷静さを欠いており、彼の召喚する隕石の類は
すべて風伯の作った鋼鉄の結界に完全に阻まれ氷のドームはおろか、店の屋根にさえ到達していないが
そのようなことにはお構いなしに剣術でも攻撃を繰り出す。
どや、まぐ、朧月の3人はどうやら魔法攻撃や、魔法防御がメインのようで、
天むすの素早い剣戟への耐性はいまいちのようだが、確実に天むすの体力を奪っていくことに
成功しているようだ。
天むすは隙を見てせらへも攻撃を仕掛けようとしたが、その攻撃は直前で別の誰かによって
キャンセルされたり、かき消されたりした。

せらはうろたえるしかなかったがそのとき、どや、まぐ、朧月がなにやら3人がかりの大技を
繰り出そうとしているのがわかった。
天むすはかなり傷ついていてそれを避ける余力はなかったように見えた。
しかし、彼はこのときを予想していたかのように、残しておいた力でその魔法攻撃を避けた。
そのときちょうど背後にせらがいることに関して彼は完全に失念していたし、
何について怒っていたかを考えれば庇うつもりなど毛頭なかった訳で、
せらはその攻撃をもろに食らった!


しかし、せらはダメージを受けなかった。

装備している白衣とセーラー服のせいなのだろうか。
炎と磁力、雷と土、氷と月、という、2種×3人分の魔法攻撃は、せらに1ダメージも
与えることはできなかった。

最もうろたえたのは、その攻撃を放った当の3人である。

その瞬間、避けはしたものの体力は残っていない天むすが気を失い、
ドサリと倒れこみ、どや、まぐ、朧月はそれを見ると、すぐにそれが演技ではないと悟ったのか
構えの体勢を解いた。

朧月が氷のドームを消し去ると、まぐとどやが天むすを担いで店の外へ出た。

朧月がせらの傍に寄ってきた。

朧月「順序はめちゃくちゃになったけど、テスト終了。
   君、無属性、みたいだね。無属性の勇者は、俺の知る限り、史上初なんじゃないかな。」

せらは、その言葉をうまく自分の中で解釈する集中力も途切れるほどに精神力をすり減らしていたので
朧月が言い終わるのが早いか、その場に倒れこんでしまった。



翌朝目覚めると、せらは宿屋のベッドにいた。
隣のベッドには天むすが寝ている。
寝ているというよりは、瀕死の様子だった。

せらは幸い身体へのダメージはなかったので、部屋を出るとすぐ目の前の階段を下りて
宿屋の受付カウンターへ行った。


宿屋「おぉ〜!お目覚めですか!!」

若い男性が長い金髪の髪をうっとうしそうにかきあげながらカウンターの奥から顔を覗かせた。

宿屋「この宿屋の経営と神父を兼任している ぽあろ でっす!
   昨晩はお楽しみでしたね☆」

せらは昨晩の夢を思い出そうとしたが珍しく記憶の欠片さえ掴み取ることはできなかった。

せら「あ、あの、僕と一緒、というか僕より先?に担ぎ込まれていた人なんですけど…」
ぽあろ「天むすさんね! うーん、かなり危険な状態だね…」
せら「そう、なんですか…」
ぽあろ「よみがえらせますか?」
せら「え? できるんですか」
ぽあろ「神父兼任ですから!!」

ぽあろはキラキラと音がなりそうなドヤ顔で微笑んだ。

せら「じゃ、じゃあ…えーと、それいくらですか」
ぽあろ「天むすさんは27レベルだから27000マイリスです!」
せら「ええーっ!」


せら(やっぱり結構高いなぁ… でも、背に腹はかえられないよね。
   あんなに大怪我したのも僕が怒らせちゃったからなんだし。)

ぽあろ「どうしますか?」
せら「お願いシマス!」


せらが30000マイリスをカウンターの皿に置きながらそういうと、ぽあろは突如華麗に舞い始め
キラキラと光を放った。
眩しくてせらが目を細めながら見ているとその輝きはやがておさまり、額にうっすらと汗を
浮かべたぽあろが息を切らせていた。

ぽあろ「ふぅ…。 覚悟、完了!!!!!」
せら「えええー覚悟しただけ!? 今の、ただの覚悟の舞!?」
ぽあろ「冗談ですよっ☆ 天むすさんなら2階で全回復しているはずです。
    ところで…あなたと天むすさんはパーティメンバーでなければ、よみがえらせることは
    できないので、僕が今の能力を使う際についでにパーティ構成を強制的に
    行っておきました。」
せら「は、はぁ…。」
ぽあろ「解除はかーなーり面倒な手続きがいるので、諦めて一緒に冒険の旅に出ちゃったら
    いいと思いますよ!
    あ、ちなみに」

そういってぽあろは、ビラを手渡してきた。
ぽあろ自身が描いた自画像がドデカくフルカラーでプリントされており、
「お得!! よみがえりの舞 キラキラなしで90%OFF!!」
の文字が踊っている。


ぽあろ「キラキラエフェクトをなしにすると、90%OFFっていうサービスもやってますんで!」
せら「え!? 90%OFFって、さっきのパターンだと2700マイリスでやってくれたってこと!?」
ぽあろ「はい〜☆」
せら「…そんなに安くして、よみがえらせる効果に何か悪影響が出るとか、ないんですか」
ぽあろ「ご安心ください! キラキラしようとするまいと、しっかりよみがえらせます!
    お値段据え置きで同様の効果です!!!」
せら「そんな…2700マイリスのほうで良かったのに…据え置いてないし!!」
ぽあろ「初回特典でキラキラエフェクト付にして差し上げましたのに!
    これ、喜ばれるんですよ〜?僕に。 滅多に注文がないのでなかなか見せる機会がなくて…」
せら「知らないよ!」


せらは、2階へ駆け上がった。
ドアを開けるとちょうど天むすが半身起き上がったところであった。

せら「あ、天むすさん! 昨日は…ごめ」
、「ん…? あ、せらさん…。俺は一体なんでこんなとこに? 宿屋??」

その様子から察するに、どうやら天むすに昨日の騒動の記憶はないらしい。

せら「あ、うん… 昨日ね、かにみそさんのお店で…色々あって、僕たち運ばれたんだよ」
、「そうだったのか。俺大怪我したみたいだなあ…服がボロボロだ。
  まさかせらさんが、助けてくれたの?」
せら「いや…僕は…天むすさんに迷惑かけちゃった側だよ…」
、「そう、なの?」
せら「うん、昨日…天むすさんがエビを薦めてくれてね…それで…僕」
、「わかった」

天むすはせらの言葉を遮った。
その口調は決して優しくはなかった。

、「俺、こういうこと初めてじゃないから、つまり何があったのかはわかったよ。」
せら「うん…」

せらは涙ぐんでいた。

、「それ以上言わなくていい。また繰り返しになるかもしれないだろ?
  それに、せらさんは勇者として、この町を…いや国を、きっとすぐに出て行かなきゃならない。
  もう、きっと関わらない、だから、すまないんだけど、何も言わないで、
  そして俺にもう話しかけないで」
せら「えーと…それなんだけど…僕たち、もう、パーティメンバーみたいなんだ…」
、「え…?」


天むすはすべてを察したようだった。

今までにもこのようなことは何度かあったが、彼をよみがえらせる契約を交わすのはいつも家族だった。
血縁はパーティ構成メンバー以外でも「よみがえりの舞」を依頼できるので、
普段彼が、エビの件で猛り狂って魔法攻撃による制圧を受け瀕死になると、
いつも家族が宿屋に呼び出されるのだった。

しかし今日という今日だけは勝手が違った。
家族が来るより先にせらが27000マイリス支払って、天むすをよみがえらせてしまった。
そしてそれにはパーティ構成が必要だということに天むすは思い当たったのだ。

余談だが、よみがえりの舞は既に死んでいる者や、寿命を迎える寸前の者には効果を表さない。
魔法攻撃を受け身体と魔力が弱っている状態の「瀕死」の者を全回復させ救うものである。


、「パーティの解除をするには、超膨大な量の書類をみそさんに提出しなければいけない…!
  くそっ! なんてことだ! 俺は、いやだぞ! 協力しないぞ!!
  エビが嫌いなせらさんなんかに、絶対ついていくもんかー!!!!」
せら「僕、エビチリなら食べられるよ…」
、「……!?
  うるへー! エビチリ”なら”じゃねえー! 贅沢いうな!!」
せら「ご、ごめなさいっ!」

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今日の登場人物

えびちゅ/天むす 天属性の剣士。えびが嫌いなせらに対して非協力的。パーティメンバー。



文:(V)・∀・(V)
原案:蟹Projects