厨房からは主にまぐのけたたましい声が響き続けていた。
せらはそわそわがおさまらず、お腹が痛くなりそうだ。

せら「あの、僕ちょっと先に道具屋とか、見てきてもいいですか?」
みそ「そう。わかったわ。人材を何人かピックアップしておくから。」
せら「アリガトウゴザイマス!」

せらはそそくさと”かにみそ鍋”を後にした。
店の喧騒から離れると、勇者という肩書きからも解放されたような気持ちが湧いてきたが、
それは錯覚であることは火を見るよりも明らかだと思ったし、そんな揺れる自分の感情と
現実には余計に眩暈がする思いだった。

せら(なんで僕がこんな目に遭っているんだろう?マリオさんと幼馴染だったから…?)


回復アイテムはおそらく装備品よりは安価なはずだ、と考えたせらは装備を整えた上で
道具屋を見てみようと、まず武器・防具屋へ向かった。
そして余ったマイリスで回復アイテムを揃えればいい。


店員「いらっしゃいませー!!」

店員は、じんだいに着せた作りかけの服にまちばりを刺しながら応対した。
性別があやふやな感じはどうやらエルフ族のようである。
エルフ族は手先が器用なため、武器と防具の店をチェーン展開しているのだ。

店員「店主のえんどぅです! どういったものをお求めですか?」
せら「あ、どうも。。えーと…動きやすくて防御力がそれなりに高い防具と、
   あまり重くない武器ください。」
えんどぅ「ふむふむ、かしこまりました!こちらなどいかがですか?」
せら「えっ、これ…スカートですけど。。」
えんどぅ「単なるメイド服に見えますよねー! これ魔法防御力がすごく高くて、
     軽いしオススメですよ!」
せら「僕、それ着たことありますけど…あまり動きやすい印象はないなあ…」
えんどぅ「その辺は、このえんどぅが、色々工夫を凝らしていますから、
     そんじょそこらのメイド服と一緒にしてもらっては困りますね!」

えんどぅはくすくす笑いながら、いかにそのメイド服が機動性に優れているか説明した。
せらは、いくら機動性に優れていても外見的にもうちょっと何かないのか、と
店内をキョロキョロ窺った。

せら「えーと…予算が、武器と防具合計で50000マイリス上限なんですけど…」

せらは予算内に収まる組み合わせの中から選ぼうと、えんどぅに相談してみることにした。
しかし、返ってきた答えとしては、
1、メイド服+小銃
もしくは
2、セーラー服+ダガー
の二択、というものだった…。

せら「そんな。。。」


せらは悩みに悩んだ末、前者を選ぶことにした。一旦は…。
そのときの選択理由は、近距離戦を避けたいの一点に尽きた。


えんどぅ「えーと、おそらくお客様はそれが似合わないと思うのですが、
     こちらで装備していかれますか?」
せら「ええーっ! 似合わないと思うのにどうしてそんなに熱心に薦めたの!?」
えんどぅ「”似合うか似合わないか”とパラメータの変化は別問題なので!」
せら「僕のやったゲームでは、パラメータが変化しないことと似合わないことは同義だったよ!?」
えんどぅ「そんな別次元のお話をされましても・・・」

結局せらは、予算オーバーになることを覚悟の上で
セーラー服+縦笛型小型銃+白衣を買った。

白衣をセーラー服の上に重ね着することで、なんとか誤魔化せるんじゃないかな、と思ったからだ。
店を出る、という何気ない動作にも一握りの決心が必要になったが、
防御力のためだ、しょうがないことなんだ、と自分を納得させ、せらは店の扉を開け外に出た。

えんどぅ「ありがとうございましたー!」



次に、せらは”やくそう”などの回復アイテムを買い溜めするために道具屋へ向かった。

店員「いらっしゃいませー!」

カウンターで若い女性が笑いかけてくれたので、せらは直接聞いてみることにした。


せら「やくそうとか、ありますか。あ、戦闘で傷ついたときに回復できるものであれば
   やくそうじゃなくてもよくて…ハンバーガーとか…宝玉とか…」
店員「ないですよー!」
せら「ええっ」

店員の左胸にピンで留められているネームプレートには「ひろむ」と書いてあった。


ひろむ「お客さん、うちは薬屋でもなければ、ハンバーガーショップでもないんですよ。
    道・具・屋ですから! 薬草とか自分で採集してください。」
せら「あ、ご、ごめなさいっ。うーんと、じゃあお店間違えちゃったなあ。。」
ひろむ「折角だからうちの自慢の、道具を見ていってくださいよ。
    何 も 買 わ な い で 帰 れ る と 思 っ て る ん で す か ?」
せら「ひい。。」

店内は、扉をくぐって正面がレジカウンター。
左右の壁には棚が配置されており、どうやら文房具を多く扱っているように見受けられた。
室内中央に小さなテーブルもあり、【安売り】や【特集!】などのポップが踊っていた。


ひろむ「今日、筆ペン安いですよ!」
せら「え、興味ある・・・」
ひろむ「文字を書きますか? 絵を描きますか?」
せら「どちらもかくけど、一応肩書きは・・・あ、まぁ・・・絵描きです」

せらは、今日自分の肩書きに「勇者」が追加された件に触れるべきか迷ったが
今は黙っておくことにした。

ひろむ「じゃあこちらの筆ペンおすすめですよ! 10000マイリスしますけど、
    これでも値下げしてあるんです!!安いんですよ!!」
せら「へ、へぇ・・・そうなんだ・・」

せら(筆ペンに今10000マイリス払う余裕は正直ないよなあ。。
   ペンは剣よりなんとかと言うけどもね!)


ひろむ「ち・な・み・に この定規!かわいいでしょ!!?
    今月はものさし月間ってことで特集組んでるんですよ!
    2000マイリス均一!
    ものさしがあれば、直線も書けるし、長さも測れちゃうんですよ!?すごくないですか!」
せら「うわあ。。便利だなあ。。昔ものさしってアイテムが出てくるRPGあったなあ。」
ひろむ「絵描きさんならものさしは何かと要りようだし、結構カッターの歯で削れて
    消耗したりしますからねー。2本くらい買っちゃいません!?」
せら「あ、でもぼく・・・」
ひろむ「じゃあ…こっち! 見てくださいこの分度器!!
    模様つき雲形定規もかわいいけど、分度器みたいに角度は測れませんからね!」

朧月「それ、一個ください」


ひろむが商品解説に夢中になって、せらがその勢いに気圧されていると、
いつの間にか背後には朧月が立っていた。

せら(あ、さっきの…。ろうげつさん、だっけ? 分度器、買うんだ。)


ひろむ「ありがとうございますー! 3000マイリスになりますっ」
朧月「んーーちょっと財政的に厳しいけど、必要なものだからなぁ。
   はい、3000マイリス」
ひろむ「丁度戴きます。こちら、商品と、当店の最新カタログになります。
    ありがとうございました!」

せら「あ、あの。。朧月、さん?」
朧月「あぁさっきの子だよね。そんなに分度器が珍しい?」
せら「あ、いや、分度器、一体何に使うんですか?」


一瞬、空気がピリっとしたのをせらは肌で感じたがすでに手遅れだった…。

朧月「俺、月の魔術使うからさ、角度とか満ち欠けって大事な要素なんだよね。
   今までに買った分度器の数は数え切れないよ。中でも特に大事にしているものだってある。」
せら「そ、そうだったんですか。無知でごめんなさい。」
朧月「そんなことも知らないのに、どうして勇者になんて選ばれたんだい?」
せら「うぐぅ。。」


朧月は、せらをもう一度じっと見つめると黙って店を後にした。
せらはとても悪いことをしてしまった、と思ったし、このあと”かにみそ鍋”へ戻るのは
大層気が引けてしまったが、朧月の後に続くしかなかった。
ただ、店を出る前に筆ペンは一本買っておいた。

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今日の登場人物

ひろむ 手作り文房具を扱う道具屋の店員。
えんどぅ 武器防具屋のデザイナー。機動性を兼ね備えたメイド服などを作る。



文:(V)・∀・(V)
原案:蟹Projects